劣化
森林整備が森林を劣化させる。
「当たり前に行なわれていることが実は正しくない」というのはよくある事。
多シカ村(仮)の山では、除伐したら最後、下層植生は再生しない。
正しくは、萌芽した新芽をすべてシカに食べられてしまうので成長できない。
現在獣害防除のプラスチックネットを設置しているヒノキ林でおもしろい物を発見した。
おもしろいと言ってもそれはかなり深刻な事態だ。
現場は5年半ほど前に除間伐、枝打、獣害防除のテープ巻きというフルコース施業が行なわれた。その時に隣接する同条件のヒノキ林には手をつけなかった。
広葉樹が侵入し、ヒノキも込んでいるように見える。
こちらは施業後。スッキリしている。
しかしよく見て欲しい。除伐したのは5年半前、今年ではない。
6シーズンの夏を越えているのに下層木が全く育っていない。
以前にも似たような写真を載せたが、新芽を食べられ続けて伸びることが出来ずにいる。
このままではいずれ枯れてしまうだろう。
そしてこの問題の核心はこれから。
【土壌】だ。
施業前、双方の地面はほぼ同じ状態だった。
現在、手付かず林分。
急斜面のため流れ気味ではあるが、広葉樹の落葉が堆積し腐植土に覆われている。
対してフルコース施業林分。上下左の写真は10mほどしか離れていない。
広葉樹の落葉供給が失われて表土は流れ去り、石が露出している。
このままでは森林自体が崩壊してしまうだろう。
実際、周辺のヒノキ造林地は崩壊だらけだ。
手付かず林分のヒノキを観察してみると、熊剥ぎ被害はあるものの、枝の枯れ上がりはまだ2m未満、十分な樹冠長率を維持し、明るいので広葉樹もまだ維持できている。
緊急に間伐が必要な状態ではない。
5年半前に行なわれた事は、混交林化していた林を刈払って種の多様性を奪い、山林崩壊を加速させる結果になった。
このような現状があるにもかかわらず、公社や県の担当者は広葉樹の価値を認めず、今年も別の林地で同じことを繰り返してしまった。
山を見ない人間に森林管理は出来ない。
コメント
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育林の為の施行なのか、補助金の為の施行なのか。
昔からよくあるジレンマであります。
現況に対して苦言とアゲアシとりをしてみても、なにも変わらないので。(自己の経験から)
行政にたいして良好な関係を保ちつつ、ここはこのように施行いたすべき、といった明瞭なビジョンと
明確な施行計画を提案する能力を作業者側が持つべきである、と私は思います。
あなたなら出来るでしょう。
私には出来ませんけど(笑い)
投稿: gotoれす | 2013年12月20日 (金) 20時06分
gotoれすさん、ごもっともです。
計画段階で「噛む」ことができればやりようがあるのでしょうね。事務職の教育も少しずつやっています。
3つ前の記事に載せた所がまさに繰り返してしまった現場です。僕たちは信念をもって、材木としてはどうしようもなくなったヒノキをも尊重しつつ広葉樹を残す方法を、苦労して現物として提案しました。
結果、抵抗虚しく小径木全刈の手直しをくらいました。
投稿: だん | 2013年12月20日 (金) 21時42分
広葉樹林業を積極的に行っているうちの組合では、作業するときには自然に広葉樹を残します。しかしでそのイメージで作業したら、全部切れと○●官に指示されたそうです。2度手間になりました。担当がもっと自信を持って説明してやれば良かったのにと思いました。混交した広葉樹は真っすぐ伸びるので、希少価値大なのですがね。環境だけの話をしても理解されない時には値段で訴えるのが効果的ですね。
投稿: 8-mori | 2013年12月21日 (土) 21時21分
8-moriさん、やり直しの現場は植林したヒノキはクマ剥ぎとツルがらみでほとんど用材としては壊滅状態、伐採当時は大規模架線で出しましたが、今となってはアンカーにする大木も無く、地形が複雑で出しの悪い所です。
造林としては完全に失敗ですね。不良債権。それを認める(責任をとる)事が出来ないのでしょう。
検査担当者と同行の県職員は、出せないかもしれないと認識しながら小径広葉樹全刈と崖で安全上入らなかった部分の伐採を指示しています。
補助金仰いで山を見ず。
こんな事では林業なんかやめて自然に任せた方がどれだけマシかと思ってしまいます。
投稿: だん | 2013年12月21日 (土) 22時04分
大鹿からそれほど離れてない四徳で下刈りをしていますが、土は痩せて、通い道からは滑りやすい土壌がすぐ現れます。ひのきをいくら手をかけても皮は食べられてるし、8割くらい曲がったり二股三股にわかれており人工林としての価値はすでにないです。わたしは広葉樹のなまえをいっこうにおぼえられないですが、勝手に生える彼らや赤松をわずかに残すように施業することしかこの計画に対して抗えません。ただプランナーを闇雲に非難するわけにはいきませんが。そのためには、我々作業員が科学的な知識や過去の叡智または失敗をまなび、共有し、ある程度確かな公の見解をもたなければいけないのでしょうね。組合をむやみにやめるわけでなく、確かな足がかりをもって独立されただんさんは本当にすごいと思います。ちなみに数年前リスクアセスメント研修会でただひとり元玉切りの理性的な対処を求めたあなたは本当に勇気もあるし、その行動力も羨ましいです。なにしろ口と身体の見解がバラバラな親方ばかりですからね
投稿: 倉本 | 2014年12月14日 (日) 23時10分
倉本さん、四徳の造林地は広いですね。そして皆伐後はヒノキには厳しい土地だと思います。
特に計画を立てる立場の人にはしっかり勉強して欲しいです。補助金が補助としての機能を果たせるように。
アセスメント研修の件は場の空気に耐えられなかっただけです。講師個人には言ってもムダなことは承知の上で、受講する側にも考えてほしいと思っていました。
独立は前々から考えてはいましたが、足がかりは何にもないです。ノーロープで飛び出してしまいました。かろうじて樹木医というロープはつかみました。着地点はまだまだという状況です。
投稿: だん | 2014年12月16日 (火) 08時43分